

梅宮に咲く花
どの街にもその街が勝手に決めた街の花というものがある。県花、区の花、市の花、町の花、村の花、などなどあるが、私の住んでいる梅宮市にも梅宮市の花というものがあり、それはお察しの通り梅である。しかし梅宮市にはもう一つよく咲く花がある。「Les Fleurs du mal」という花であり、梅宮を始め北関東一帯で咲いているのをよく見る。きっと寂しげな場所が好きな花なのだろうと思う。善くも悪くも東京に悪の華は咲かない。

夏をキャッチボール
夏になると、イトコのミキちゃんと夏をキャッチボールする。夏は扱いが難しい。夏は野球の白球とは違いとても柔らかい。ミキちゃんは言う。
「夏の取扱いは慎重にしなくてはなりません。」
夏はとても繊細だ。
「夏は掴もうとすると、途端に逃げます。」
夏は、犬か猫かで言ったら猫だ。
「夏は膝を擦りむいています。」
夏はいつだって傷を負っている。
「夏は男の子、お母さんが大好きな甘えたいお年頃。」
夏はまだまだ青いのだ。
「ねえ、夏!夏はキャッチボールされるの本当は嫌?」
誰も夏の本当の気持ちは知らないのだ。
「よし!夏をキャッチボール、開始です。」
また今年も夏のキャッチボールが始まった。

村瀬は魔術師
同じクラスの村瀬は魔術師だ。本当はマジシャンになりたかったらしいけれど魔術師はマジシャンになる必要はないのだ。
「次のヒキタテンコウの座をね本当はねらってたの…」
村瀬は寂しげにそう言うが魔術師だ。
「ねえ、このマジック憶えてる?」
村瀬の口から万国旗。
憶えてるよ村瀬、失敗してゲロしたよなお前。
「でも今じゃこんなにスムーズに出来る…出来る必要ないのに。」
そう言う村瀬はどこか晴れやかだ。
「もう行くよ、私のマジックショーはこれでおしまい。さようなら。」
万国旗が宙を舞う。夕焼けが世界の国を赤く染めた。
アディオスアミーゴ。赤い髪の魔術師。


「ここをねグッと押すと痛いんだよ?」
イトコのミキちゃんは物知りで、僕にいろんな事を教えてくれる。
この前も親指の付け根にあるツボを教えてくれたのだ。
「ねえ知ってる?ここをねグッと押すと痛いんだよ?」
…あっ本当だ痛い。
「あっあとここもだよ、ここもグッと押すと痛いよ?でもグッと押さないと別に痛くないよ?」
…あっ本当だ、グッと押すと痛いけど、グッと押さないと別に痛くないね。
僕がそう言うとミキちゃんいたずらっ子のようにクスクス笑いだした。
「グッと押すから痛いんだよ、それならグッと押さなきゃいいんだよ!」
僕は蒙が啓かれた気分になった。
イトコのミキちゃんは、流れ行く自分のウンチの応援に余念がない。
「詰まっちゃいけないからね、いつも応援するの。ウンチさん頑張れえ、ウンチさん頑張れえって声をかけてあげるんだよ。」
そうするとウンチさんは嬉しそうにプルリンっと流れて行くらしい。
私のアリアは男顔
イトコのコトネちゃんの歯の矯正器具は祖母から命じられて仕方無くつけている偽物で、歯並びなんて矯正していない、
でもキラキラしてる。
生々しさと非生々しさの渦中にこそ、祖母の説くお豚の境地アリ、故に歯の矯正器具 とはよくわからないけれど、
キラキラしてる。
コトネちゃんの歯の矯正器具にチョコがついている。
朝方チョコを食べたのだろう。
コトネちゃんの歯の矯正器具は口の中の星座だ。
笑むと赤い闇の中に立ち現れるコトネ座、観測をしたいけれど、コトネちゃんはあまり笑わない。
アリア、それは女神の名前。
マリアでありアリスでもある存在。
アリア、それは私が見つけた女神の名前。
アリア、それはプリンでありゼリーでもある存在。
アリア、それは私が見つけたたった一人の女神の名前。